刀の赤字から考えるAI時代のコンサルティングのあり方

刀の赤字から考えるAI時代のコンサルティングのあり方

2025/04/18

2025/04/18

刀の赤字から考えるAI時代のコンサルティングのあり方

刀の赤字から考えるAI時代のコンサルティングのあり方

2025年4月、マーケティング企業「刀」が第8期決算で24.36億円もの最終赤字を計上したとのニュースが経済界を駆け巡りました。USJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)の再建で知られる森岡毅氏が率いる同社の巨額赤字は、多くの経営者に驚きをもって受け止められたことでしょう。なぜこれほどの赤字に陥ったのか――その背景にはコンサルティングビジネスの構造的な課題が潜んでいるのかもしれません。同時に、経営環境はAI時代へと大きく変化しており、従来のコンサルティングモデルも変革を迫られています。本記事では、「刀」の事例を起点にこうした課題をひも解き、従来型コンサルモデルの限界やAI時代における顧客提供価値の再定義を考察します。最後に、経営者が取るべき視座と具体的なアクションについて提言します。

刀の赤字が浮き彫りにする構造的課題

森岡氏の「刀」はマーケティング戦略コンサルティング企業として華々しくスタートしましたが、第8期にして最終赤字24.36億円という深刻な業績悪化に直面しました。前期の赤字1.83億円から約13倍にも膨らんだこの結果は、単年度の失策というよりビジネスモデル上の構造問題を浮き彫りにしているように見えます。一因として指摘されるのが、大型プロジェクトへの積極投資です。例えば、刀は東京・お台場で「イマーシブ・フォート東京」と呼ばれる没入型テーマパーク事業に参画し、大規模な先行投資を行いました。コンサルティング会社が本来自社で資産を抱える事業に踏み出すことは異例であり、この挑戦が短期的な収益悪化を招いた可能性があります。

さらに、トップ人材を集めた精鋭チームゆえに人件費や固定費が高止まりし、プロジェクト収入とのバランスが崩れやすい構造も考えられます。人に依存したビジネスモデルで急成長を目指す難しさがここにあるということでしょう。刀の赤字は、こうしたリスクテイクの難しさを如実に物語るケースと言えます。

従来型コンサルティングモデルの限界

上記の構造問題は、刀に限らず従来型のコンサルティングモデル全般が抱える課題とも重なります。従来のコンサルティングは、高度な専門知識と人的リソースを投入し、クライアントに分析レポートや戦略提言を提供するスタイルが主流でした。このモデルでは、大規模プロジェクトほど多人数・長期間を要し、フィーも高額になります。しかし、その成果物である提言は実行されなければ価値を生みません。クライアント企業側では「高いコストをかけた割に具体的な成果が見えにくい」という声が上がることも少なくありません。また、コンサルタントが現場を深く理解する前に短期間で提案をまとめるケースや、提案後の実行フォローが不足するケースも見受けられます。

さらに近年、情報と分析手法の民主化が進み、AIツールやデータ分析プラットフォームによって、かつてはコンサルだけが提供し得た知見が誰にでも手に入る時代になりつつあります。例えば、市場データの分析や競合調査程度であれば、AIを活用することで短時間に精度高く実行でき、もはやコンサルタントの専売特許ではなくなり始めました。こうした状況下では、人海戦術と属人的な知見に頼る従来モデルの限界が露呈しつつあるのです。

AI時代における顧客提供価値の再定義

では、AI時代におけるコンサルティングの価値はどのように再定義されるべきでしょうか。AI技術の台頭により、定型的なデータ分析やレポート作成といった業務は自動化・効率化が可能になりました。その結果、コンサルティングファームには今まで以上に「人だからこそ提供できる価値」が求められます。まさにAI時代のコンサルには、単なる知識提供者ではなくクライアントの変革を共に推進するパートナーへの転換が期待されているのです。

具体的には、AIでは代替しにくい洞察力や創造性を発揮し、クライアント企業の文脈に即した戦略立案を行うことが重要になります。また、提言のみに留まらず、AIツールを活用したソリューションの実装支援や、クライアント組織内でのデータ活用・人材育成まで支援する役割も鍵を握ります。例えば、コンサルタント自らがAIを駆使して市場シミュレーションを行い、その上で経営者と共に意思決定を行う「共創型」のアプローチが考えられます。AI時代のコンサルティングは、人間の強みとテクノロジーを融合させ、従来以上にクライアントの成果にコミットする姿勢へとシフトしていく必要があるでしょう。

経営者がとるべき視座とアクション

AI時代にコンサルティングのあり方が変わる中で、経営者はどのような視座と行動を取るべきでしょうか。まず、自社がコンサルタントに何を求めているのかを改めて問い直すことが重要です。単に不足する知識やリソースを補うためだけでなく、AIを含む最新テクノロジーを活用して自社の競争力を高めるパートナーとして、コンサルを位置づけられているかを確認しましょう。また、従来の延長線上にある提案よりも、データに基づく客観的な示唆や実行支援まで含めた「成果志向」の契約形態を検討することも有益です。

経営者自身もAIリテラシーを高め、基本的なデータ分析やAIの可能性を理解することで、コンサルタントから上がってくる提言の価値を正しく評価できるようになります。さらに、自社内にもデータサイエンスやAIの知見を持つ人材を育成・登用し、外部コンサルに丸投げしない体制を築くことが望ましいでしょう。外部の知恵と内部の実行力を組み合わせる視座を持つことで、AI時代において真に成果を出せる経営改革が実現します。

結論

森岡氏の「刀」の赤字というニュースは、コンサルティング業界が直面する構造的課題と変革の必要性を浮き彫りにしました。従来型のコンサルモデルは、AIの台頭する現在、その限界が明確になりつつあり、提供価値の転換が避けられません。AI時代のコンサルティングでは、人間の強みである創造性や文脈理解力とAIのデータ処理能力を掛け合わせることで、クライアント企業により大きな成果をもたらすことが期待されます。そのためにも、経営者はコンサルタントの活用方法を見直し、テクノロジーと人間の知恵を融合した戦略的パートナーシップを築く視座が求められます。コンサルティングの本質的な価値を再定義し、AIを味方につけた企業のみが、これからの激動の市場環境で持続的な成長を遂げることでしょう。

最後に、経営者の皆様も本記事の示唆を踏まえ、自社のコンサル活用や戦略策定の在り方をぜひ見直してみてください。AI時代にふさわしいアプローチへの転換を図り、未来に向けた一歩を踏み出しましょう。